研究概要 |
本年度は本科学研究費による研究の最終年度であり,研究成果のまとめを行う一方で,新出資料の収集と分析に努めた。特に,最近中国で発掘されたソグド人の墓から出土した墓誌に現れる人名を収集・研究した。そしてそれを含め過去2年間に収集した漢字音写されたソグド人名の全資料を,データベースのかたちで入力した。別に,漢字音写された人名を本来のソグド語に還元する際の基礎作業として,子音文字で伝承されたソグド語及び人名の正確な発音を解明を目指した。具体的には,ソグド語と最も類似したイラン系の現代語であるヤグノービー語との比較対照と,一部で母音記号を持つシリア文字で表記されたキリスト教ソグド文献を分析することによって,ソグド語の母音体系について考察した。その成果の一部は,英語で発表されるソグド文法の音韻論に活用されている。特には,ストレスアクセントのない音節で短母音が弱化する現象を解明できたことは大きな収穫であった。 ソグド語人名そのものの研究としては,ソグド語人名を最も多く含む資料であるムグ文書とインダス川上流の岩壁銘文を別々に整理し,特に前者についての既存の読みを検討し改善した。さらに最近になって東洋文庫に収蔵されることになった,ロシアにある未出版のソグド語資料をマイクロフィルムから調査し,人名が含まれていないかを調査した。また,ソグド語を表記する漢字音の研究として,時代差と地域差を考慮する一環として,6世紀から7世紀前半にかけて中国の西の端の高昌国で行われた音写の特徴について考察し,中国の内地と比較して非常に古い音を用いている可能性が高いことを指摘した。
|