今年度は、以下の4種の研究を行った。 (1)昨年度に引き続き、大阪方言の古録音談話資料から、アクセント記号・品詞付きの文字化テキストを作成し、明治10-30年代生の大阪人のアクセントの実態を解明した。併せて、杉藤美代子編『大阪語・東京語音声アクセント辞典』によって、大正から昭和後半生の大阪人のアクセントの性格を明らかにした。昨年度扱った、幕末から明治初年生の大阪人のアクセントと併せて、大阪アクセントの史的変遷の過程がほぼ明らかになったと考える。このテーマについて、本科研報告書を作成した。 (2)昨年度以前に作成した、高知市・徳島市・兵庫県小野市・明石市の3地点・京都市・滋賀県野洲町の、各『アクセント小辞典』と、上記『大阪語・東京語音声アクセント辞典』を対照し、中央式諸方言全体の中で、大阪アクセントの史的変遷を位置づけた。従来、研究がなされてこなかった、4拍漢語・擬態語・数詞などを扱うことができた。 (3)中央式から、高起式/低起式の対立が失われてできた、垂井C式アクセントに属する、兵庫県太子町方言の記述調査を行った。この方言は、体言のアクセント核の位置については、やや古いタイプの中央式に、非常によく一致することが判明した。その点で、中央式諸方言の史的変遷の過程の推定に有用である。 (4)京都アクセントについて、若干の話者について、記述調査を少々行ったが、調査はほぼ完了したといってよい状態にある。今後は資料整理に重点が移ることになる。 以上の諸研究を通して、中央式諸方言の実態解明と、史的変遷の過程の推定に、かなりの程度、寄与することができたと考えるものである。
|