本研究において、京都市方言及び、次の「京阪系」諸方言のアクセントの記述調査研究を行った:a高知市・b徳島市・c兵庫県南部(c1小野・c2明石・c3神戸市・c4太子)・d京都府中川と滋賀県野洲・e香川県(高松・丸亀・三本松)。また、f大阪市の古録音資料(幕末から明治初年生まれの話者による大正から昭和前期録音)を用いたアクセント記述を行った。このうち、京都市及びa・b・c1〜c3・d・fは中央式に属し、各地点の方言差はおよそ史的変遷過程に対応する(概略a→b→c1〜c3、d→f→京都市)。c4は中近世に中央式から分岐した垂井式に属し、eは南北朝以前に中央式から分岐したが、中央式の古い特徴を保存していると考えられる讃岐式に属する。 以上の全地点について、2万前後の項目からなるアクセント小辞典を作成し、さらに、京都市方言については談話録音資料(明治20年〜大正初年生まれまでの話者による)からアクセントを帰納した。 これらの諸方言アクセントの調査を通して、中央式(及び垂井式・讃岐式)の実態が従来とは格段に明らかになった。これらの方言は、いずれも、従来は少数の類別語彙しか調査されていなかったり、個人差・世代差の詳細が不明だったのである。 また、本研究を通して、これらの方言アクセントの史的変遷の過程と、史的相互関係の解明を進めることができた。とくに、漢語、複合名詞・用言の活用形などについては今回初めて明らかになった事柄が多い。また古録音資料によって、近世から現代へのアクセント変化の時期・順序を確定することができた。
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