本年度は二年間プロジェクトの二年目に当った。資料収集の各分野の研究者との情報・意見交換も続けたが、それに加えて初年度に発表した四本の論文を更に仕上げてとりまとめる作業に取り組んだ。 西洋の宗教改革時代においては、エリザベス朝廷演劇は中世の道徳劇や受難劇より世俗化され堕落した文化の象徴としてピューリタンに非難され検閲された。日本においても社寺から離れた興行として一時独立した能楽も世俗化された芸術として認識されたし、そして政治的動機は異なるが、レパトリが幕府の圧力に応じて操作された。 両文化においてそのレパトリ操作や評論流布のプロセスを解明することによって、比較思想史を試みた。その解明のために代表作における聖典の引用・翻案を分析するのがひとつの方法ではあるが、より史的な成果を得るために、まず(1)レパトリ全体の特徴を分析すること(古典として評価されている現行作品と廃止された作品の比較分析等)、そして(2)聖職者による演劇評論(イギリス側ではピューリタンの一派であるクエーカーのロンドン本部の議事録等、日本側では僧や儒学者の注釈等)を分析し比較した。 思想史の試みは近代西洋的な概念から出発して遡及的に過去を解釈し決定してしまう危険性がある。そういった過ちを避けるために、もっとも効果的と思われる文学理論=脱構築論とフェミニスト唯物論の効果性を確認するという問題意識をもって適用しながらその限界をためすこととした。文学研究の細分化のため、文化学系と言語学系が分離されがちになり、前者は質的、後者は量的な部分を強調されて、最近多くの研究成果にそのために偏りが現れているように思われる。本研究ではそのバランスの修正を目指して、文学理論を基本にしながらコーパス言語学を導入することにより従来の文学理論の限界の解明も試みた。
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