平成10年度は、当該研究の計画と方法に従い、平成9年度に検討した「煙粉小説」の定義のうち「才子佳人小説」について考察した。 中でも、中国大連図書館所蔵本について調査した結果、明末、清初には「才子住人小説」が同一の出版社からシリーズで出版され、広範な読書層を形成していたことが明らかになった。その後、この中国文学史上初めてといえるシリーズ小説は、その出版量の故に、日本、朝鮮、ベトナムにももたらされたことを解明した(現在投稿中、研究代表者)。 また、昨年から考察している『金雲翹伝』についていえば、従来その「繁本」は大連図書館所蔵本一冊と考えられていたが、研究代表者の調査の結果、神宮文庫にも蔵せられていることがわかった。この発見はその流伝と分布を考える上で大きな資料となる。また九州の広瀬文庫などに「簡本」が蔵されることが明らかとなった。 一方、『酢胡芦』を通して嫉妬文学の系譜と影響、『孤山再夢』を通して還魂小説の系譜と諸外国への影響について考察した(研究代表者)。 研究分担者は『西遊記』にみる「煙粉小説」的要素について考察し、平成11年度中には論文として上梓する予定である。
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