本研究は、1)孫楷第に始まる「煙粉小説」の語義を「極端な性描写にはしる小説を除いた男女の恋物語」と規定した上で、2)東アジア一帯に影響を及ぼした中国の煙粉小説『金雲翹伝』の版本と内容、3)『金雲翹伝』翻案小説及び情愛観(朝鮮半島・ベトナム・江戸期の日本)、4)煙粉文学受容の書誌的側面、から考察を加えていった。 成果は、研究成果報告書「中国煙粉小説の受容に見る情愛観の比較研究」として取りまとめた。その内容は「煙粉とは何か」「『金雲翹伝』孝・・・版本について・作品の成立について・作品成立以後・アジア文学への影響(ベトナム・日本・朝鮮半島及び満州語文化圏)・・・」「江戸時代の諸藩及び個人文庫に見える煙粉小説の書名について」「ベトナム・満州などにおける中国煙粉小説の版本孝」より成る。そのうち具体的情愛観の比較検討は、『金雲翹伝』の翻案物を通じて行い、ベトナムの『キンバンギュ』、日本の『通俗金翹伝』・『風俗金魚伝』・『朝顔日記』などの作品を比較した後、その情愛観について考察を加えた。それぞれの作品は同一作品の翻案でありながら、そこに表れた女性観・情愛観は大きく異なる。この相違には、各民族の歴史と価値観が大きく影響を及ぼしていると言える。 なお、研究のなかで、研究代表者は、煙粉小説における「嫉妬文学」の系譜について「酢葫盧」小説を中心に東アジアの嫉妬文学の受容について執筆中であり、今後も継続して発表していくつもりである。
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