平成9年度における本研究は、アファーマティヴ・アクションに関わる様々の具体的ケース、とりわけ差別是正の必要性や逆差別に関わる規範的正当性の問題、アファーマティヴ・アクションのもたらす効果や社会的帰結の問題、あるいは抑圧されてきた少数者の自我あるいはアイデンティティと平等な社会秩序との間での充足関係の問題などに関わるケースについて調査し、それらの問題の性質に応じて類型別に整理することを行なった。さらにこれらのケースについては、特にその社会の歴史的事情との関連において、アファーマティヴ・アクション必要論の議論構造を探ることを行なった。これは、規範的な議論の背景にある事実との連動を明確にして、アファーマティヴ・アクションに関わる人々の価値観の基本構造を探るためであった。基本的な知見としては、個人の種々の属性とは分離された人格的要求が基本的に成り立っており、それとの関連で、個人に不利な状況をもたらしているハンディの負担可能性が認識され、それを除去するためにアファーマティヴ・アクションが必要になっていること、それとの関わりでいわゆる逆差別を引き起こさないような形でアファーマティヴ・アクションの射程を適正なものに限定する動きが出てきていることが知られた。
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