この研究は、3年計画で進められるものであるが、その初年度である本年度は、課題の遂行に関する基盤的データを、インターネット経由で収集するとともに国内における各種の非営利団体(いわゆるNPO)や自治体などのヒアリングによって各団体の活動の実態把握などを行った。イギリスでは昨年5月に政権交代が行われ、それまでの保守党政権の路線は基本的に継承されつつも、課題に関係する無視しえない動きが現れている。その一つは、この課題の遂行にあたって設定した仮説に符号するように、国家的統合の溶解現象の進行の対極に現れつつある社会のなかの「共同性」の「復権」=「再構築」の動きである。周知のように集権的な国家システムの構築に際して法がそうした人為的統合のモメントとされるほど、社会から見た法はその正統性の調達を社会のなかの「共同性」にではなく国家の「共同性」に求めざるを得なくなるが、そこからはさまざまなレベルでの社会の国家的「共同性」への反撥力が生まれ、法と社会の「共同性」の乖離が必然化する。法への不信とその機能不全は、イギリスにおける「無風地帯」であった法の作動装置、とりわけ司法的機構総体に及び、その正統性を担保した法専門職の自律性それ自体の「ゆらぎ」をもたらしつつある。問題は、このような過程でわが国でも現象しつつある法の「普及」とその「商品化」が法専門職の自律性を瓦解させつつ展開し、裁判例を第1次的法源とする独特の法構造をも揺るがせていることである。こうしてこの研究は次第に、次年度以降の課題である「国家の私化」に関連する諸事象、特に「脱官僚制」と「市場型意思形成」の現実像の解明に向かっていくことになるのである。
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