今日、ポスト福祉国家の展開過程では、個人の自助とともに国家でなく社会への依存が政策的にも追求され、国家の空間的な縮減とともに、個人の自律と社会の空間的拡張が相互に依存的な関係において展開するという特徴が認められる。この研究は、そうした国家と社会の関係の変化に伴う法の変容の有り様を歴史法社会学的手法で解明しようとするものである。 この研究を通じて明らかになったことは、イギリスにおいては「社会」の概念が、市民的な空間として形成されながら、それが国家との関係において単純に併存するのでなく相互に規定的な関係において歴史的に展開するものにほかならなかったということである。言い換えれば市民的な公共圏が国家の領域に吸収される過程における法的かつ制度的なメカニズムが、国家とともに社会の有り様をも規定していくという問題である。これは、従来、法を国家の社会への介入装置として道具主義的に見るか、逆に法を社会に規定されるものとしてみるかの相違はあるにせよ、そこに法がそれ自体として固有の構造と論理を有するものとして見るという視角が希薄であった法社会学の支配的潮流に対する一定のチャレンジングな問題提起を意味する。 国家がその正当性の根拠をそれ事体の公共性にでなく社会の構成原理に求めるという「脱=福祉国家」化の過程では、国家の「私化」ともいうべき、その脱=公共化が進行し、法の正統性の根拠はそれ事体の「公共性」もしくは社会成員間の合意という、法の「始源的」枠組に「回帰」する。この現象を歴史と現代のイギリスと日本の比較において解明したのがこの研究の意義である。
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