今年度は、昨年来より続けてきた人権に関する法文化的アプローチとともに、1997年7月から東南アジア全域を覆っている「東アジア金融危機」をめぐる法体制の問題に研究が集中した。前者については、アジア型人権といわれるものがなぜ集団的な構成をとるのかについて考察し、個人的な権利として構成される西欧型人権との対比を行った。 後者については、このアジア型と西欧型・特にアングロ・サクソン型の社会・経済システムないし経済文化とも言うべきものがその基本にあるという認識のもとに、契約・透明性・説明責任を軸とするアングロ・サクソン型資本主義に対して、共同体型・暗黙の合意・同の責任を基礎とするアジア型資本主義ともいうべきものを構想しているが、これについては、研究会で報告したりしているが、いまだまとまった形になっていない。前者が法的なものであるのに対して後者は非法的な性質を有しているということができよう。これについては、危機後各国で破産法や競争法の制定の動きが急であり、特に競争法は会社法とともに、企業活動に大きな影響を及ぼすものであると考えるので、今後その動きに注目したい。 地域的には、今年度の計画として東アジア儒教圏というものを予定していたが、東南アジアを中心に上記の問題を設定したため、これについては十分に検討することができなかった。 来年度は最終年度でもあるので、地域的には東アジアと南アジアを視点に入れるとともに、APECなかでもオーストラリアとカナダを中心として、アングロ・サクソン型法システムとアジア型法システムの類型的対比を行いたい。
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