本年度は課題研究の最終年度にあたっており、これまでの3年間の研究成果の総括と将来研究への架橋を意識しながら研究を行った。このプロジェクトの開始直後の1997年にいわゆるアジア経済危機が勃発し、この結果、ASEANを中心とする東アジアのほぼ全地域で法制度改革の大きな動きがあり、当初想定したアジアとアングロ・アメリカ法文化の融合という想定は見事に崩れ、政治及び経済領域においては「透明性と説明責任」という名のもとにアングロ・アメリカ型法制が大々的に導入されている。もっとも、社会領域に関しては、危機後のセーフティ・ネットの構築に際して世銀などからNGOや固有の社会組織の見直しの動きもみられ、そこでは「アジア法文化」が公式レベルでも再活性化しているとみることもできよう。これらの知見を踏まえて、アジア太平洋地域の法文化の俯瞰的な展望を行った。 今年度固有の成果としては、これまで積み残しとなっていた南アジア地域についてインド法律研究所(ニューデリー)及び南アジア地域協力連合(SAARC)本部(カトマンドゥ)を訪問し、課題についてのコメントを仰いだ。南アジア諸国も東南アジア諸国ほどでないにしても、グローバリゼーション化のなかで法改革を迫られていることが確認された。ベトナム中央経済管理研究所のズアン所長には来名いただきベトナムの経済改革と法改革についてヒアリングし、同国でも経済自由化とともに企業法や競争法制の整備が急務であるという情報を得た。この意味では、規制緩和・民営化とそれをめぐる法制度の整備は全アジア的な課題である。しかし、この現象がアジア諸国のアングロ・アメリカ法の全面的な受容と結論するには、若干早計であると考える。
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