幕府による大名統制策から日常的な行政事項に質的転換を遂げた近世の転封について、その手順や実態を明らかにすることにより、大名を日本型の「家産官僚」と位置づけることに成功した。また、未精査の関係史料を全国規模で調査した結果、フィルム(複数を含む)にして11万コマ余の原史料と、8千頁にのぼる活字化された史・資料を蒐集することができた。これらの分析を通じて、(1)幕藩制国家が近代的な官僚制国家に移行する直前の形態と段階に達していた状況を解明し(報告書第一部)、(2)公開に向けた関係史料の集大成とデータベース化による多様な観点からの分析態勢を整えた(報告書第二・三部)ことで、一応の成果を得たものと考えている。 本研究の進展とともに、さらに別角度から考察する必要を痛感したのが、「家産官僚制」の母体となる疑似的な「家」そのものの形成プロセスである。これは、同時進行の形で参加した国際日本文化研究センターの共同研究「公家と武家」(平成8〜10年度)の討議を通じて構想し始めたテーマでもあり、データ面において転封史料と強い共通性をもつ。経費と時間の制約から、踏査できたのは70前後の大名家中に留まり、所在確認のみで終わった文書群が未蒐集の状態で残されているので、次の研究課題と併せて史料調査も継続することになる。 これは、史料の蒐集と公開の新しい手法を実用化することも目的とした本研究を、次世代に向けて展開させる意味をもつ。高度情報社会にあって、これまでマイクロフィルムに依存してきた史料類はデジタル化された画像データへの転換を迫られている。すでに簡便なデジタルカメラを駆使して、数千の史料ファイルを蓄積してきた経験から、これらをさらに高品質なものに進化させつつ高精度な史料蒐集を進め、既蒐集のものと併せてより完全なデジタル・データベースを構築できると思う。
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