わが国では、政治・行政システムの全体のみならず、世界で一流とされてきた経済においても、制度疲労・構造的腐敗・経営破綻が顕在化して、国家経営の機構総体がいわば自己崩壊とも言える現象を呈している。これを生み出した思想的背景は、経済成長偏重の国家運営であると思われるが、その対極にあって放置されたのが、人権保障を中心とした「法による統治」、 「法的思考に基づき責任をとる行政や経済」である。この期に及んで、国家的危機を克服しようとするさまざまな芽がある。「地方分権」の推進もその一つであるが、 「司法改革」も、国家のあり方そのものに影響を与える大きな動きとなりつつある。現在は、欧米からの要求である経済規制の緩和とそこから生ずる紛争の迅速な処理に焦点を当てた財界・政党の改革案と、より人権保障に軸足をおいた改革案などが対峙している。 こうしたきわめて大きな文脈の中で、地方分権と法治国家の確立に貢献するための「法的あり方」をめぐる草の根の動きも顕著になってきた。国際的規模、日本の全国的自治体連合組織のこうした目的での動向は、今回の研究成果に拠る限り貧弱である。各都道府県の中の自治体連合組織、とりわけ市長会・町村会・議長会などの動きも全般としては鈍い。しかし、地域においてはさまざまの形態のネットワークが姿を見せて、新しい分権社会において地域の存続そのもの、より豊かな生活環境の確保を目指した法システムの確立に向けて活動しつつある。また、職員自身が法的思考能力を身につけるための様々の工夫が、地域連携によりつつ公務員研修や自主的研修・研究などの形をとって各地で進められている。本研究では、いわば底辺からの法治国家化の行方を見いだすことができたと思う。
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