本年度は、昨年度の成果を引き継ぎ、さらにそれを発展させるべく、とりわけ司法警察組織における行政法規の執行の実態とその規定要因の分析を進めた。行政法規の執行過程分析にあたっては、ともすれば行政組織だけに注目が集まるが、直罰規定あるいは命令違反に対する刑事罰規定を媒介として、警察を前線とする司法警察組織も関与している。また、その存在が、行政組織による執行活動に影響を与えていることが予想されるからである。インタビュー調査を中心となるデータ収集と分析の結果、以下のことが明らかにされた。 第一に、行政法規を扱う警察組織は、生活経済担当であるが、その所管は、500を超える法律・条例に及んでおり、実際の活動において意識されている法律は限定されている。 第二に、分野によって、行政との連携をとっているものとそうでないものがある。とりわけ、廃棄物処理法の執行においては、違反者が暴力団関係者であることが少なくないために、行政は警察の力を借りざるを得ず、現職警察官を出向・派遣の形で行政組織の一員として招いているという事実がある。それ以外のところでは、一般に、両者の関係は疎遠であり、警察には、内定活動に必要な情報が十分に入手できないという意識がある。 第三に、人事交流が進められている分野では、行政の違反対応活動が厳格になったという評価がされている。これは、警察の眼を行政内部に入れたことの効果であると思われる。 第四に、内偵から検挙・送致に至るまで、警察は、検察の強い影響力のもとにある。複雑性を有する行政法規の執行に、検察官は、必ずしも協力的ではない。 以上を踏まえた政策的知見としては、安易に横並び的に刑事罰を行政法規につけるのではなくて、それが現場でうまく執行されるように検討されるべきことが示唆される。理論的には問題のない構成要件も、そのあてはめに現場が苦労することもある。執行リソースの制約も深刻であるために、執行システム設計における行政との役割分担を真剣に検討すべきである。
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