1.開発事業に関する様々な評価制度を、(1)環境に関する情報と意見の集約・交換のための制度に止まる(a1)か、事業計画に関する公共的意思形成のための制度(b1)か、(2)事業評価制度に止まる(a2)か、上位計画や基本政策をも評価対象とする制度(b2)か、(3)専ら環境影響のみを評価項目とする制度(a3)か、広く社会経済的なメリット・デメリットの評価にまで及ぶ制度(b3)か、という三つの視点から分析すると、環境影響評価法に基づく評価制度は、環境保全の見地から市民・地方公共団体・環境主管庁に意見表明の機会を保障するとともに、スコーピング手続導入により可能な限り早期における環境情報開示と意見交換を可能としたとはいえ、基本的にはa1+a2+a3型として位置づけられることが明らかとなった。 2.これに対し、フランスの公益評価制度は、事業者により行われる科学的評価システムとしての狭義の環境影響評価手続、中立的な委員・委員会が主宰して行われる公共的合意形成システムとしての公開意見聴取手続、更には、国民全体の関心を呼ぶ大規模な事業計画について、基本計画時点で公共的討論を組織するための仕組みとして行われる「公共討論」や、都市計画及び都市交通計画に関する市町村の基本政策作成時に行われる事前協議等々、多様な形で多元的に体系化されていることが明らかとなった。 3.このように、狭義の環境影響評価と市民参加手続とを別立ての制度とした上で両手続を結合させることにより、科学的評価と公共的合意形成とを各々十分に尽くさせようとするフランスの公益評価システムは、事業のもたらす社会経済的な影響への評価対象の拡張、並びに、上位計画や基本政策段階での公益評価システム導入のための制度設計を検討するに際して、有益な参照例となることが明らかとなった。
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