(1)近時のヨーロッパ政治学・行政学で注目を集めている「実験法律(experimentelle Gesetzgebung)」は未だ日本では十分に分析がなされておらず、未開拓の課題となっていた。これは、憲法学、行政法学、行政学、政治学、立法学などにかかわる学際的な性格をもつものである。本研究の成果として、この概念についてわが国の法律学では初めて後述のような研究成果を公表できたことが挙げられる。 (2)「実験」法律とは、(a)期限が設定されていること、(b)評価措置(評価の義務づけ・評価委員会の設立・評価報告書の作成)を伴うことの二点で「実験」の形容を付されている法律であり、例えばドイツでは、学校・教育改革、法曹教育、メディア政策、交通政策、建設制度、賃借人保護などの諸領域で近年その例を多数認めることができる。こうした一連の法律は、理論的な観点から見れば、伝統的に「一般性・抽象性」を特徴としてきた法律概念の修正を迫るものであり、実務的な観点から見れば、試行としての性格を持つ各種政策を実現するための重要な手段として多用されている。本研究を通じて、以上の点を明確化した。 (3)本研究を進める過程で、ドイツの学者と議論を行い、この概念の比較法的な意義を探求した。具体的には、わが国に見られる時限法、見直し規定の多用化が共通性を持つことを発見した。また、わが国では、自治体条例が実験法律の役割を果たす点も確認した。
|