当初本年度は実態調査にあて、モデル・ビルディングの為の検討と実際的な提言とは来年度に予定していたが、資料収集と研究進行の都合により本年度はむしろモデル・ビルディングに力を注ぐことになった。研究計画調書の中でも述べておいたとおり、本研究の究極的な目的である抵当不動産の任意売却の促進の為には、それに向けた交渉という訴訟外の事実を把握する枠組みと、それに対する法制度の作用を測定する社会工学的な枠組みが必要となる。筆者はその手がかりを交渉ゲーム論に求め、本年度の研究を通じてシェイキッド・サットン交渉ゲームによる法制度の分析・設計が可能であることを実証し得た。一般理論は論文「契約法とゲーム理論」の中に提示してある。またこの一般理論を、複雑な担保取引・執行制度に適用する前提作業として、折から論じられ始めた定期借家権を素材として実地に応用したものとして小論「定期借家権と交渉」がある。既に「売却のための保全処分」に関する判例研究を進めており、来年度は本格的に不動産担保実務の実態の分析に取組み、特に担保権の実行として競売に関する実用的な議論にまで具体化したい。
|