平成9年度において筆者は、担保制度を執行のコストまで含めた視点で分析するための一般枠組みとして、交渉ゲーム論によるモデル・ビルディングを採用してその一般理論としての彫啄に努めた。 平成10年度は、抵当権制度に関して平成年間に下された最高裁の新判例を渉猟し、それらが如何なる法学的および実務的な利害の調整を図ろうとしたものであるのかを検討した。具体的には(1)抵当権に基づく賃料への物上代位(2)滌除・代価弁済(3)法廷地上権(4)短期賃貸借・売却のための保全処分に関するものである。その際に昭和金融恐慌下での金融実務の展開を意識して形成された旧通説の価値権論が大きく後退していく経緯が跡づけられた。他方で、この数年、判例のみならず個別立法のレヴェルでも幾つかの重要な進展が見られた。例えば民事執行法の平成改正が代表的なものである。またこれに公表された試案の類を合わせると、かなりの量の立法提案が既になされている。具体的には物上代位の配当手続に関する立法論、滌除制度改革に関する立法論、法廷借地権に関する立法論などがある。これらの収拾と分析を一定程度すすめ、かつ前期の判例分析と結合するための研究を進めた。 研究成果としては、まず総論的なものとして、80年代後半にアメリカで展開された担保の効率性を巡る議論を手がかりとして、債務者、後順位抵当権者等の多数の利害関係者を視野に入れたモデルを作成した。次いで各論的なものとして短期賃貸借に関する395条についての立法諸提案をそのモデルによって分析して評価を加えた。
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