3年計画の最初の年であるため、必要な資料の収集とその検討および実態調査に重点を置いて研究を行った。 1.(資料の収集と検討)日本国憲法32条の規定する裁判を受ける権利の保障についての資料、裁判法制定過程と昭和62年法律第90号「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律の一部を改正する法律」に関する資料を幅広く収集し、まず前者についての検討を行った。 日本国憲法32条が規定する裁判を受ける権利の保障を、現にある裁判制度の利用を保障するものととらえるならば、簡易裁判所の配置も国の司法政策の一貫として位置づけられ、その裁量の範囲内の問題ということになる。ことに予算面の制約がある以上、人口数の少ない地域への配置が過小になってもやむを得ないということになろう。しかしながら、憲法が規定する裁判を受ける権利の保障は、このようにすでに出来上がった裁判制度を前提とし、その制度の枠内で裁判を受ける権利を認めたものにとどまらず、裁判を受ける権利を保障するに相応しい内実を持った裁判制度の構築までも要求するものであるとする見解が、近時、有力に唱えられている。この見解によれば、裁判を受ける権利の保障は、国に対しそのような内実をもった裁判制度を整備し、それを通じて国民に司法的救済を与える義務を負わせるものと考えなければならないことになる。 2.(実態調査)鹿児島県下の簡易裁判所について司法行政監督権を有する鹿児島地方裁判所(裁判所法80条)において、各簡易裁判所への簡易裁判所判事・裁判所書記官・裁判所事務官などの配置の実際、また裁判官が配置されていない簡易裁判所への裁判官の填補状況について文書で照会し調査した。また簡易裁判所における事件数の実態について、司法統計年報により毎年の変化を調査した。 また研究代表者は、平成9年度から民事調停委員として最高裁判所から発令を受け、鹿児島地方裁判所・鹿児島簡易裁判所で実際の民事調停を担当するようになったため、新・民事訴訟法(平成8年度法律第109号、平成10年1年1日施行)により、新たな役割をおった簡易裁判所の実際の機能についても有意義な知見を得ることができた。 3.(次年度以降の計画)基本的には本年度の研究を引き継ぎ、資料収集と分析および実態調査を行うが、司法統計年報などの公式資料では明確にされていない各簡易裁判所別の事件数の変化などを検討する予定である。
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