民法学における歴史と比較・継受の問題を考究するに際しては、足元を固めておく必要があることから、今年度は、19把紀フランス法学とわが国との接点を解き明かす作業に没頭した。そのため、(1)民法典起草者の中心人物たる梅謙次郎の法典観と法学につきできるだけ時代背景に即しつつ論じ(「装置としての法典と法学ー梅謙次郎という神話ー」)、(2)ボワソナードのもたらしたものとそれに対する反応としての明治民法典の特質を明らかにするとともに(「法典の〈形式〉をめぐる諸問題ー旧民法と明治民法ー」)、(3)ボワソナード個人の思い入れと日本の側での受け入れ態度との落差を明らかにすることを試みた(「『プロジェ新版』につい」])。それぞれにつき、論文形式での公表を終えるとともに、(2)については北海道大学での学会(「ナポレオン法典と日本の近代化ーボワソナードを中心として」)でも報告した。 今後は、19世紀を通じて展開する「近代法」の系譜と痕跡を辿る方向に研究の焦点を絞って行きたい。 そして、昨年の研究実績で報告した、担保給付についての論文が公表された。また、それと所有権移転義務の日仏比較も含めて、九州大学で開催された国際シンポジウムにて報告・討論した。近々に成果が刊行される予定である。 なお、この九州大学での学会のために来日したジャマン教授とアルペラン教授は、いずれもフランスの若手研究者を代表する法学史の専門家であり、その機会に多くの議論をすることができ、今後の研究のうえで大変有益であった。
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