昨年度の報告において、「今後は、19世紀を通じて展開する近代法の系譜と痕跡を辿る方向に研究の焦点を絞って行きたい」と述べたが、今年度はできるだけその方向での研究を深化させるよう務めた。 まず、総論的には、19世紀の法現象の特徴たる、法典という近代的装置の歴史的意味と構造を解明することに意を注いだ(「法典という近代-権力・構造・言語」)。また、その延長線上で、法制史学会創立50周年記念シンポジウム「近代法の再定位-比較法史学的試み-」にて、「フランス革命・民法典と近代法-歴史・資本主義・市民社会-」というタイトルで報告した。いずれも、民法学の立場からは自明視されがちな法の存在形態につき、メスを入れようとしたものである。 次に、各論的には、以前から検討を進めている債務法の基礎概念たる「給付」の分類概念につき、論文を公表した。一つは、司法書士会主催のシンポジウムの報告におけるものであり、所有権移転義務を「与える給付」として分類する19世紀フランス法の立場を対照的なドイツ法ならびにわが国の通説の立場を分析した。もう一つは、昨年度、九州大学で開催された国際シンポジウムにて報告・討論したものに大幅に手を加えて公表したものである(「与える給付と担保する給付-それから一〇〇年、もう一つの歴史-」)。 さらに新たな各論的テーマとして、ポティエに始まり、フランス民法典・ボワソナードを経由した「既判力概念」の系譜につき、オルレアンで開催されたポティエ生誕300年記念の学会にて報告した。ここでもドイツ法の影響が顕著に認められるが、それはフランスでも同様であった点が興味深い。現地ではアルペラン教授を始め、多くの研究者と議論をすることができ、大変有益であった。 以上、研究は、各論的側面では一定の進展をみているが、総論の核心たる「法の歴史性」に関しては、来年度を期するほかない。
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