本研究は、「社会経済の国際化と労働法のハーモニゼーション」という課題について、特に重要性の高い雇用平等と労働基本権を素材に、国際的に発信可能なレベルの一般枠組みの構築を目的とした。 雇用差別に関しては、法制度がもっとも整備されているアメリカ、欧州裁判所による法理論がEU加盟各国に多大な影響を与えているEU、雇用機会均等法の見直しが日程に上っている日本の制度状況について文献サーベイを行い、問題点を整理した。さらに、1997年にブエノスアイレスで開催された国際労働法社会保障学会世界会議に提出された雇用平等に関するナショナルレポートを詳細に分析し、最新の状況をグローバルな視点から分析した。この結果については、研究代表者(菅野)が、同世界会議において、ジェネラル・レポータとして総括報告を行った後、会議での議論を踏まえてさらに加筆したレポートを公刊した。そこでは、雇用平等問題として議論されている課題に人権的アプローチにより対処する国と、雇用政策によって対処しようとする国とのアプローチの違いを明らかにし、雇用平等を論ずる新たな視点を提供した。 他方、労働基本権保障問題については、予定していた国際労働法社会保障学会アジア会議が開催国の事情により2001年に延期となった。そこで研究分担者(荒木)が、経済発展段階に対応した労働基本権利の把握という視点で日本の状況を分析したペーパーを韓国、マレーシア、台湾、フィリピン、中国等のアジア諸国から来日した研究者に対して示し、これらの労働基本権の普遍性と経済発展段階との関係についてディスカッションを行った。そして、労使関係を集権・分権、敵対・協調という視点から、アメリカモデル、ヨーロッパモデル、スカンジナビアモデル、日本モデルの四つに類型化し、アジア諸国における労働基本権に対するアプローチは、労使関係を法制度によって分権・協調モデルに限定するような状況にあるのではないかとの試論を提示した。
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