日本において大学が「エリート」から「マス」へと移行したのは、1960年代後半のことである。大学紛争とその後の事態は、この段階移行を象徴する出来事であった。Expo'70(大阪万国博覧会)争議の主役をなしたのが、アルバイト学生であったとしたならば、採用・内定(取消)などの労働契約論的解明を急がせた遠因にあるのも学生運動であった。公害問題を惹起した重化学工業化と高度成長の時代が1970年代前半までに終り、産業構造が第3次産業にシフトし、経済のサービス化が顕著な近年、大学は「マス」から「ユニバーサル」への移行期にある。偏差値序列化、多様化された大学・高等教育機関において青年期を過ごす学生は、高卒に代わって今や基幹的な新規学卒労働力として労働市場に登場するが、その労働への関わりはすでに在学時代に始まっており、脱工業化社会や経済のサービス化は、アルバイト、パートタイム労働力としての学生を抜きにして語ることはできない。 大学・学生論に関する文献資料等によって以上のことを(再)確認した上で、本年度においては、学生時代における労働との関わり、アルバイトを介しての労働世界、社会への参加について、各種の「学生生活実態調査報告書」をも参考に、その実態と問題点の把握に努めた。具体的には、求人情報入手手段・経路、(労働)契約締結過程、就業職種・形態、就業時間数・時間帯、賃金形態と計算・支払方法、トラブル事例、離職、労働法リテラシーなどがその主たる項目、関心事項である。詳しい分析と補足的な調査、テンポラリー・ワーカーとしてでなく、正規雇用としての労働世界・企業社会への参入、現代学生像の総括は次年度の課題である。
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