労働法から見た学生は、2つの顔を持っている。1つは、アルバイト、パートタイム労働者として第三次産業を支える非正規・柔軟雇用型「労働者」の顔であり、今1つは、正規雇用の新卒労働力として企業や公的部門に吸収されていく「労働者予備軍」としての顔である。大学のエリートからマス、さらにユニバーサル段階への移行は、大学・学生の極度の多様化(エリート、マス、ユニバーサルの併存状態)をもたらすことが先行研究によって明らかにされているが、大学の多様化が格差・序列化へと変形するのは、学生の就職を媒介として、企業社会の理論、官公庁・企業間の格差・序列化が大学を包摂することに起因する要素が大きい。 新規学卒でも、中卒や高卒の場合は未成年者ということもあって、学校や職安による就職指導・仲介という公的メカニズムが働いているが、大学生の場合は、自己決定力を有するエリート像が法制度の前提にあるため、就職活動は私的自治に委ねられ、大学(就職課・相談室など)は情報提供など補助的サービスを行うにとどまっている。しかし、調査や文献研究によって把握しえた日本社会の現実は、明らかにこのような想定とは異なっている。今や基幹的な存在となった大卒労働力が、黄断的労働組合による社会的規制や行政による公的規制も乏しい自由市場に参入し、附合契約的な労働契約を締結しているというのが実態である。 高等教育の発展段階論と現代学生像を踏まえて、教養教育に労働法教育を組み込むことの必要性、ならびに職安法の改正・労働市場法制の改革には、大卒労働力市場に対する公的規制の整備という視角も不可欠であることが、本研究をとおして明らかになった。
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