本年度は、まず、日本におけるカルテル規制の概要について、戦前ならびに戦後の判例を中心に考察を深めた。 その結果として、戦前に刑法に追加された談合罪の規定は、当時の初期的な独占禁止政策の影響の下にあったのではないかとの仮説が導き出された。右の仮説を発展させて、現行の独占禁止法上の不当な取引制限罪と刑法上の談合罪について、いずれもそれが重なり合う限度において法条競合と理解すべきではないかとの解釈論上の結論に達した。 この成果は、松下満雄編になる『経済法の現代的展開とその展望』(商事法務・1998年6月刊行予定)に掲載するべくすでに脱稿した。 以上の日本におけるカルテル規制を考察することによって、比較法的な視点からの日本の独占禁止法の再構成の必要性が改めて明らかとなった。特に、戦前の1930年代以降のアメリカならびにヨーロッパの初期的独占禁止政策は今までも十分に明らかとされてこなかった。 その点に関しては、概略ではあるが、アメリカ・フランス・イタリアの立法動向を上記論文の中で考察を加えることができた。 また、ドイツに関しては、カルテル規制について、伝統的に競争制限法でなく詐欺罪の適否が問題となってきたことが明らかとなった。 来年度は引き続き、比較法的観点からのカルテル規制を考察することとするが、さしあたって、アメリカの1930年代の判例の検討を行うほか、ドイツにおいてなぜ競争制限法の適用に消極的であったかの実質的な理由を探求することを中心としたい。
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