本研究は、カルテル行為の刑事的規制に関して、アメリカ・EU他先進各国を中心にその規制の概要と問題点を検討することによって、必ずしも効果的に機能していないとされる日本におけるカルテル規制の運用について、参考となるべき知見を得ようとしたものであった。初年度には、比較的その実態が知られているアメリカの法制度に加えて、ドイツ・フランス・イタリアの立法の内容を、その歴史的経緯から検討した。その結果、フランス並びにイタリアの談合規制法は、アメリカのシャーマン法の影響を受けた戦前のカルテル規制立法であり、日本の談合罪にも影響を与えていること、したがって、談合罪と独占禁止法上のカルテル行為規制とは、一般法・特別法の関係で理解すべき結論を得た。第二年度は、アメリカの判例ならびに実務の実態の解明に中心をおいた。その中でも収穫は、アメリカ独占禁止法の民事法の分野で発展されてきた効果理論を、刑事事件にも応用しようとしたアメリカ連邦最高裁の判例が1998年にでたことを契機として、日本においてもこの効果理論の採用の可能性を検討できたことであった。 また、この効果理論の採用が他の先進各国にどのような影響を与えるかについても分析した。最終年度は、この域外適用との関係から、電子署名を用いた電子取引の刑法的規制について検討した。さらに、知的財産権と独占禁止法との関係について、刑事規制の立場から考察したが、折りしも、マイクロソフト社の、基本ソフトに関するアメリカ連邦地裁の判決が、近々出される予定であるため、司法省やFTC、そのほか実務家、企業担当者などから得られた知見も併せて、その理論的問題と、刑事規制についてどのような影響がありうるかを考察した。 総じて、この研究機関における、知見と考察の集積は、実り多いものであったといえるが、ドイツやフランスにおける、判例実務の実態の解明には充分でなかったといえ、その点今後の研究の課題としたい。
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