ジェノサイドや戦争犯罪等の重大犯罪について個人の刑事責任を追及する国際裁判所を設立するための条約(国際刑事裁判所規程)が1998年に締結された。これは前文および128の条文から成り、その構成は、第1部裁判所の設立、第2部管轄権、許容性、適用法、第3部刑法総則、第4部裁判所の組織、第5部捜査および訴追、第6部公判、第7部刑罰、第8部上訴および再審、第9部国際協力および司法共助、第10部執行、第11部締約国会合、第12部財政、第13部最終規定である。締約国が60カ国となったときに発効する。裁判所はオランダのハーグに設置される。締約国会議によって選出される18名の裁判官によって構成され、裁判官の任期は9年である。 国際刑事裁判所(International Criminal Court・ICC)の対象犯罪は、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪および侵略の罪の4つである(ただし侵略の罪については当面は対象犯罪とならない)。これに対する刑罰は、無期または30年以下の拘禁刑である。死刑は科されない。 規程には刑法総則の章が設けられ、罪刑法定主義、事後法の禁止の原則、時効の適用のないこと、犯罪の主観的要件と錯誤、正当防衛・緊急避難等の阻却事由、責任能力、酩酊下の行為、刑事責任年齢、未遂、共犯、上官の刑事責任、上官の命令を理由とする抗弁等が定められている。 ICCは、関係国において内乱等によりその国の刑事司法制度が存在しないか有効に機能しないような場合に、国内刑事司法制度の補完としての役割を果たす(補完性の原則)。ICCに事態を付託できるのは、(1)締約国、(2)安全保障理事会および(3)ICCの検察官である。そしてICCはその犯罪の犯罪実行地国または被疑者国籍国の同意があった場合に、その事件についての管轄権をもつ。 その他この規程は、刑事手続(捜査手続・公判手続等)、ICCに対する締約国の司法上の協力(犯罪人引渡し・捜査共助等)についても規定している。 本研究では、国際刑事裁判所規程のこれらの論点等についての基礎的研究を行ったが、今後は規程の主要な規定についてより詳細な解釈論的研究を行う計画である。
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