1)本研究の根幹をなす「責任原理」について、ドイツの学者アルトゥール・カウフマンの研究を素材としつつ、新カント派価値哲学を克服すべく、存在論哲学の観点から、人間存在の本質に根ざした実質的責任原理を志向した「責任原理の基礎づけと意義」と題する研究をまとめることができた(『市民社会と刑事法の交錯』所収)。 2)さらにそれを踏まえて、過失犯理論の根本問題のひとつである「認識ある過失」と「認識なき過失」の区別の意義をめぐる問題について「『認識ある過失』と『認識なき過失』」と題する論文(『西原春夫先生古稀祝賀論文第二巻』所収)において、後者の可罰性を否定する論拠と論理を呈示することができたのは、大きな成果であった。今後の刑法理論に多少ともインパクトを与えうるもと自負している。なお、それと関連する共同研究「過失犯理論の総合的研究」のシンポジウムを日本刑法学会関西部会(1997・7・20)で実施することができた点も大きな成果であった。 3)具体的問題としては、「火災死傷事故と過失犯論(七)」(広島法学21巻1号)を公表することができた。次年度はその完結を目指したい。 4)その他、医療過誤についても、主として産科領域の法的問題に取り組むことができたし、海上交通事故についても実態調査を実施して有益な成果を得た。
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