1. 昨年度の研究により、責任原理の基礎づけができ、また「認識ある過失」と「認識なき過失」の区別から「認識なき過失」の不可罰性をある程度基礎づけることができたが、本年度はこれを補充し、さらなる理論づけを試みると同時に、いくつかの実証的研究を実施した。 2. 具体的には、理論的研究として、前年度に実施した共同研究「過失犯理論の総合的研究」(シンポジウム)での報告内容を「過失『責任』の意味および本質-責任原理を視座として-」という論文にまとめるできた(刑法雑誌38巻1号)。そこでは、過失「責任」の変遷を分析しつつ、その本質を問い直すことに成功した。また、ドイツのアルトゥール・カウフマンの大著『責任原理-刑法的・法的学的研究』の翻訳も刊行でき(九州大学出版会)、過失責任の刑法哲学的意味を世に問うことができた。さらに、「放火罪と公共危険発生の認識の要否」の問題も論文にまとめることができた(産大法学32巻2・3号)。 3. また、実証的研究として、火災事故、各種工事に伴う事故、医療事故ないし医薬品事故、海上交通事故を対象に取り上げた。このうち、火災事故については、「放火罪と公共危険発生の認識の要否」(前出)でまとめたほか、医療事故については、とりわけ臨床研究に起因する医療事故について、「臨床研究・人体実験とドイツ法」という論文でまとめることができ、法的整備の必要性を説いた。また、イギリスのチャールズ・ヴィンセントほか『医療事故』を共訳して出版できた(ナカニシヤ出版)。これは医療事故防止を主眼としたもので、今後の日本での議論に益するところが大きい。 4. 最後に、海上交通事故については、昨年度の東京湾に続き、今年度は、北陸海域と伊勢湾の事態調査ができた。近いうちに研究成果を一書にまとめる予定である。
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