1 マスメディアの世論表現の製作過程と意思決定に関する、報道担当者聴き取り調査 街の声、世論調査、アンケート、読者投稿、選挙や住民投票に関する特集報道など、多様な「民意」報道表現について、取材と編集の過程における基本方針、意思決定過程、具体的方法、課題を在京各紙実務担当者に聴き取り調査し、送り手側の「民意」観や有権者との関係のとらえ方にみる特徴、バリエーション、背景、変化の方向性について実証的検討を行った。 (1) 調査対象-朝日、読売、毎日、東京各紙の、政治担当編集委員、政治部、社会部、世論調査部、読者投稿欄の実務責任者、特に1998年参院選ないし1996年衆完選の選挙報道担当者。 (2) 調査項目-民意への関心度とその理由・背景、取材源と取材法、特定の事例や企画における編集意図・制作過程、「民意」報道における部門間および競合他社との関係など。 2 9年度実施の有権者フォーカス・グループインタビューを含む総合的知見のまとめと分析 有権者(読者・視聴者)と政治報道の送り手との間の「民意」のとらえ方の違いに注目し、マスメディアが媒介するデモクラシーのコミュニケーション過程のどこに齟齬があるのかを分析した。 知見(1): 有権者は「民意」内部の多様性に敏感であり、報道側の民意取材や編集の仕組みに対して、かなりの批評的解読力をもつ。 知見(2): 有権者は「民意」という集合名詞には親近感をもたず、むしろ、自分と異なる経験や背景をもつさまざまな他者の意見、あるいは自分の位置を確かめるプロセスとして民意をとらえる。 知見(3): 報道の送り手と世論の関係モデルには、世論を「読む」 「媒介する」 「リードする」の3タイプがあると考えられるが、主に部門間の違いが大きい。民意への注目が、有権者の動きの読みにくさと、政治報道の存在意義の見直しに触発されていることは、米国の事情に類似する。
|