本研究の目的は、日本の国家財政の変化や大蔵省の機能変化が、日本に固有のものか、あるいは先進国に共通するものなのか、をドイツの事例と歴史的に比較することによって明らかにする点にあった。研究を進める過程において、問題の設定を具体化し、国家財政全般から、90年代以降に顕著となった財政赤字の累積に絞り込んだ。また、分析の対象を、大蔵省を中心としながら、他省庁、内閣、与党にも拡大し、それらが財政政策(毎年の予算編成と中期的戦略)において果たす役割を比較しつつ、日本において特に著しい累積赤字を生んだ経緯を明確にし、その制度的要因を摘出するよう努めた。 日独を含む先進国全体にとり、80年代の「小さな政府」路線、90年代に進展した金融市場のグローバル化、あるいは迫りくる高齢化社会は共通の課題であるが、ドイツの国家統一、欧州通貨統合、そして日本のバブル経済崩壊とともに顕在化した金融機関の危機は、日独それぞれにとって固有の環境要因であった。 本研究は、これらの要因を考慮した上でも、著しい財政赤字の膨張を招いた日本の政治経済に固有の要因として、高度成長期に制度化された与党・大蔵省の相互関係、大蔵省と中央銀行・金融機関との関係(公的信用、財政投融資と国債管理制度)、集権的税・財政システムの制度的硬直性を示唆する結論に至った。ドイツの事例との比較からは、分権国家と中央集権国家が、環境変化に対応する際の適応性の相違についていくつかの仮説的知見を得ることができた、と考えている。
|