民族運動と民族紛争において、言語が一定の役割を担いうる条件を考察し、如何なる条件の下に如何なる役割を果たすのかという問題設定を行い、さらに、対象をナショナリズムに限定した上で、ナショナリズムを国家と民族の一致を求める思想と運動であると定義した。この前提の上で、得られた結論の概要は以下のとおりである。 言語は、ある民族を他の民族と区別する特性となりうるが、このことは言語がナショナリズムにとってのひとつの利用可能な資源であることを意味すると同時に、他民族との異質性と民族内の同質性という制約条件を課すものである。これに加えて、近代産業社会が共通の標準化された書き言葉を必要とすることが、ナショナリズムにとっての言語の利用可能性を必然性に転化する。ナショナリズムは、言語という可能性を基盤として民族という内実を国家という器に注ぎ込み、産業社会の要請する言語の必然性を担保したのである。ナショナリズムは、遠い過去から連綿と絶えることのない出自に正当性を付与するという意味での集団のアイデンティティと、集団の近代社会における地位を保証し、生存と安全を保障するという意味での集団の利害とを、民族あるいは国民のうちに統合しえた。そして、言語は、この統合の鍵の役割を果たしたのである。 また、ナショナリズムと言語の関係を論じた近年の研究文献を中心に2000件弱の文献を確認し、文献目録を作成した。
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