東南アジアの小国シンガポールは、人工わずか300万人ながら、華人77%、マレー系14%、インド系7%、その他2%という多エスニック国家である。冷戦後、世界各地でエスニック紛争が多発するなか、独立30年を経たシンガポールは一度もエスニック紛争を経験せず、かつ驚異的な経済成長を達成した。 この国では、国民はシンガポール人であるとともに、上記のような4つのエスニック・コミュニティに分けられ、常時形態が義務づけられている身分証明書にはその分類が記される。実質的な国語はどのコミュニティにも中立な英語であるが、学校教育での第二言語の選択は原則として所属するコミュニティの母国語を選択させるなど、「多文化主義」の名の下に各エスニック・コミュニティの文化、生活様式、宗教、言語は尊重されて平等に扱われ、従って特定のコニュニティへの優遇策は行われず、社会的上昇の機会は個人としての国民に平等・一律に行われている。また、特定にコミュニティの集中居住を避けるために、国民の87%が住む公共住宅は、人口比率に応じてコミュニティ毎の居住比率の上限まで設定されている。この「多文化主義」と分散居住政策は、多エスニシティ国家のモデルとなりうるのではないか。 しかしながら「多文化主義」と分散居住政策は、イギリスのマラヤ支配に起因するマレー系コニュニティの相対的地位の低さを個人の努力不足に帰し、それを政治問題化することを回避させ、結果として国家建設に寄与している。来年度は、この問題点を更に分析したい。
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