本年度は、1.広義の経済理論を遡及し、そこで人間労働の特徴がどのようにとらえられてきたかについて整理・検討を加える作業、および2.情報通信技術の発展の直近の変化をとらえなおす作業、とを並行して進めてきた。その結果、1991年から4年間にわたって文部省科学研究費補助金・重点領域研究「情報化社会と人間」のなかで進めた研究成果と比較して以下のような点がさらに明確となった。 1.これまで広義の経済理論においては通常、アダム・スミス以来、作業場内分業にせよ、社会的分業にせよ、また国際分業にせよ、特定の労働過程を分割し、適材適所、比較優位に特化してゆくことで生産力は上昇するものと考えられてきた。このようなスミスの分業論に対して、K・マルクスは批判的な分析を進め、スミスが分業による生産力と見なしたものの多くが、人間労働の合目的的性を基礎とした協業関係によるものであることを指摘し、独自の「集団力」の理論を提示した。今年度は、このようなマルクスな協業・分業論に関する経済学説史を含む研究をおこなった。来年度は、近年における情報通信技術のがこの「集団力」の拡大と密接に結びついている点に考察を進める。 2.最近におけるコンピュータ技術のうち、とくに人間がコンピュータに対して働きかけ、そこからある結果を受けとる、コンピュータとのコミュニケーションの様式が大きく進歩し柔軟になってきていることを観察し、この効果が労働組織の編成の媒体としてのコンピューターの位置を強化していることを明らかにした。
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