本年度は理論モデルの構築と実証分析のためのデータ収集を行った。 理論面では、内政的成長のメカニズムを持つ2国モデルを構築し、企業の生産活動や研究開発活動の海外移転の程度を決定する要因、および海外移転が投資母国およびホスト国の経済成長に与える影響を理論的に分析した。内生的成長の理論ではしばしば、企業の研究開発活動はその企業が独占して所有する技術知識を増加させるだけでなく、その社会の構成員誰でもが利用できる公共財財的な性格を持つ技術知識も増加させると考えられている。一方、企業の研究開発活動は生産現場と密接に結びついているため、生産の海外移転は投資母国の生産技術の蓄積を妨げるのではないかとの議論が近年見られる。理論モデルでは、自由な資本移動の下での2国成長モデルにおいて、ある国で過去に行った研究開発活動はそれが現在どの国で生産活動に利用されているかにかかわらず当該国の新規の研究開発を容易にすると仮定した場合と、技術知識は開発された場所にかかわらず、現在生産活動に投入されている場所における新規の研究開発を容易にすると仮定した場合の2ケースについて2国の経済成長過程を比較した。その結果、前者の場合には当初技術優位を持っている国が世界のR & D基地の役割を果たしその国が世界全体の生産を支配するようになること、後者の場合には後発国は直接投資の受け入れによって技術知識の蓄積が促進されるため2国企業の技術知識量は次第に均等化して行くことがわかった。 データとしては、東洋経済新報社「海外進出企業総覧」の情報と、通産省「海外事業活動基本調査」の個票情報を収集・整理した。
|