本年度は、手続き的衡平性を帰結の善悪と並んで厚生経済学的な考慮に取り入れる理論的枠組みを展開することに努力を傾注して、いくつかの成果を得た。 (1) Social Choice and Welfareに掲載された第1論文は、帰結の考慮と並んで手続き的衡平性を考えることが不可欠的な重要性をもつことを例示する理論モデルを提供すると同時に、2つの考慮事項を同時に取り入れた理論のフレームワークを提示して、リベラル・パラドックスを素材としてこの新たなフレームワークの有効性を示した。 (2) Economic Journalに掲載された第2論文は、ピグーの旧厚生経済学から厚生主義的帰結主義を継承した新厚生経済学の論理的性格を明確にして、厚生主義的帰結主義がなぜ福祉の経済学の基礎としては不適切であるかを示した。 (3) 『貿易と関税』に掲載された第3論文は、第1、第2論文の理論的基礎に立って、貿易政策・措置の衡平性を巡る国際的紛争を貿易ゲームの公平な設計とフェア・プレーの義務という2つの視点から分析したものである。 (4) 『経済研究』に掲載された第4論文は、厚生経済学の非厚生主義的基礎を模索している先駆者であるアマーティア・センの福祉の経済学を検討して、その基礎概念を解説・整理すると同時に、今後の研究が待たれる焦眉の検討課題を提起したものである。この問題提起は、筆者自身の今後の課題のシナリオと重なりあうものであることは当然である。 (5) 東京大学出版会から上梓された共編著『日本の競争政策』は、従来の効率性の観点から専ら検討されてきた競争政策に対して、競争という手続き的ルールの衡平性を補完的な視点として活用しつつ、日本の競争政策を理論的・実証的に検討した研究成果である。
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