伝統的な規範的経済学は、3つの点で限定的な情報的基礎に依拠して展開されてきた。 1、厚生主義の観点:経済システムの成果を評価する際に、システムがもたらす帰結に排他的に注目する帰結主義の観点に依拠するのみならず、帰結の価値を評価する際にはその帰結が各個人にもたらす厚生のみを評価に採り入れて、帰結の非厚生的な特徴を無視する考え方。 2、序数主義の観点:個人的厚生の基数的な意義を一切否定して、厚生は単に選択肢に対する選好の序数的な数値表現であるとする考え方。 3、個人間比較の不可能性の仮定:個人的厚生の水準にせよ測定単位にせよ、個人間でその大小を比較することに対して操作的な意義を全く認めない考え方。 このプロジェクトは、仮定2、3、を除去して厚生主義の枠内で伝統的な規範的経済学を拡張する作業--これには既に多くの先行例がある--を越えて、仮定1、それ自体を除去する理論の構築を目指して構想・執行された。得られた代表的な成果は以下の通りである。 1、帰結主義と非帰結主義の公理主義的な特徴付けに成功したこと。 2、厚生主義的な枠組みを越えて分析の枠組みを拡張した場合には、伝統的な枠組みのもとで解きがたい難問とされてきた不可能性定理を解消するきっかけを発見できることを論証したこと。 3、選択機会の内在的価値や選択手続きの内在的価値に正統な位置つけを与える枠組みは、例えばGATT/WTOのような国際ルールの設計の意味と意義に対する新たな理解をもたらすこと。 これらの研究成果は全て国際的研究雑誌に既刊ないし近刊予定になっている。
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