1997年度における研究課題は次の2つであった。第1に、アメリカ・ラディカル派が提起している「ポスト・ワルラシアン政治経済学」の分析方法の理論的・方法論的含意を正確に把握する作業を行うことである。第2は、G・M・ホジソンに代表される現代制度派における各経済主体の新たな行為理論の構築の試みを、シュンペーターやハイエクといったオーストリア学派の系譜に属する「エボリューショナリー・エコノミクス」の議論との対比の中から明確にする作業を行うことである。1.第1の課題においては、現在までに相当に多くの研究の蓄積があるために、本年度は関連諸文献の整理・検討に多くの時間を割いた。とりわけ、80年代以降、ニュー・ケインジアンと呼ばれる研究集団によって主張されてきた効率賃金理論などの新しい雇用・賃金理論との「異同」を析出するという課題は、98年公刊予定である図書の第3章ならびに第5章で展開がなされる。ここで析出された論点は次の2つである。(1)ラディカル派が独自に提起する.「競合的交換論」は、労働市場での<企業.(家)対労働者>、貨幣・信用市場での<借手対貸手>という経済主体間の非対称性への着目というニュー・ケインジアンとの同じ土俵にあるものの、これらの非対称性はそれぞれの市場における両主体間の資産所有上の立場の相違に起因するとして、市場における「権力」関係を強調する点に違いがある。(2)この相違がラディカル派に固有の「政策」提言に導く。革新的な資産再配分が行われれば、市場はより効率的により公平に働くというのがそれである。これは経済の「政治」理論と一般均衡の競争的モデルとの両立可能性を示す試みといえようが、この点は、次年度においても慎重に検討すべき継続課題である。2.第2の課題については、現在も継続中である。この課題と関連するものとしては、既発表、発表予定の2つの論文で、「比較制度分析」の議論を対象にした試論を展開した。非均衡論的でより動学的な枠組みにおいて制度の経済学を論じようという<社会経済システムの制度分析>のアプローチを提起した。
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