1998年度の研究課題は、昨年度からの継続課題に関してより詳細な検討を加えることと並行して、「制度の経済学」への新たなアプローチの試みを提起することであった。本研究課題において主要な検討対象とした3つの研究集団--現代制度主義経済学、ラディカル政治経済学、レギュラシオン・アプローチ--を相互に関連させ、それらの総合化を図るという作業は、98年末に公刊した図書『社会経済システムの制度分析』(名古屋大学出版会)において〈社会経済システムの制度分析〉アプローチとして具体化された。この〈社会経済システムの制度分析〉のアプローチにおいて志向されるのは、非均衡論的でよりマクロ動学的な枠組みにおいて制度の経済学を論ずることであり、制度分析への視点としては、次の2つがとりわけ重要であると考えた。第1は、社会経済システムには多種多様な諸制度が「埋め込まれて」おり、これら諸制度間の「構造的両立性」がシステムのマクロ・ダイナミクスを規定するという点である。その際とりわけ重要であるのが、市場的調整と制度的調整の複合的で重層的な連関であり、その連関のあり方を詳細に分析することにより、いくつかのタイプの成長レジームの出現と転換を分析することが可能になる。制度分析における「調整の重層性」視点である。第2は、諸制度に媒介された個別主体の意識や行動とマクロ・ダイナミクスとの間の相互規定関係に注目することである。これは制度分析における「ミクロ・マクロ・ループ」の視点である。したがって、〈社会経済システムの制度分析〉とは、一方の分析軸に制度論的ミクロ・マクロ・ループの視点を置き、もう一方の分析軸に調整の重層性の視点を置いて、これら2つの分析軸をクロスさせることによって、制度の経済学への新たな接近を試みるものにほかならない。なお、この制度分析の試みと制度経済学におけるその他の諸潮流(たとえば、ウィリアムソンの新制度主義や青木・奥野の比較制度分析など)との対比に関しては、すでにいくつかの論稿を公表してきたが、この制度分析が進化経済学という新たな研究領域の中でどのような位置を占めることができるかついてはなお検討すべき課題として残されている(この点については、1つの試論を発表予定である)。
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