本研究は、70年代以降の現代経済学が、制度や組織、人々の学習や慣習、法や道徳といった社会的規範の分析に新たな光を照射しつつあることに着目し、こうした現代経済学における制度の発見ないし再発見という新たな研究動向に関するより理論的な検討を行おうとするものである。とりわけ、80年代以降新たな形での復活を遂げるつつある種々の制度主義に対して、本研究では、より広い分析枠組みを持つ「制度の経済学」、すなわち制度の経済学的分析にのみとどまらない、経済学の外部の諸領域を包含するより分析枠組みをもつ社会経済システムの制度分析として総合化する作業を試みるものであった。 その際に、本研究が特に注目したのは、主流派経済理論からは独立した形で理論形成を進めてきた3つの非主流の研究集団、すなわち現代制度主義経済学、ラディカル政治経済学、レギュラシオン・アプローチである。これら3つの研究集団を取り上げることにより、次の2つの成果を獲得することができた。第1に、3つの集団はそれぞれに相異なる経済学の知的伝統、すなわち、現代制度主義はヴェブレンの制度主義の伝統を、ラディカル政治経済学はマルクス的伝統を、そしてレギュラシオン・アプローチはケインズ(ポスト・ケインジアン)的伝統を担うが、これらの相互関係を問うことは、制度と制度分析を視軸としたヴェブレン-マルクス-ケインズ(ポスト・ケインジアン)の接点を探るという新たな課題を提起できるものになる。第2に、これらの研究集団は、制度分析の理論的側面でも、それぞれに異なる特徴を持つ。すなわち、現代制度主義は諸個人の行動論と制度の形成・進化の理論に、ラディカル政治経済学は制度分析のミクロ的基礎づけに、そしてレジュラシオン・アプローチは制度主義のマクロ的基礎づけに固有の研究の蓄積を有しているが、これらを総合的に関連づけることは、「制度の経済学」に対する新たな分析枠組みを構築するための基礎を提供するということである。
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