本研究は産業連関表を用いて、様々な角度から日本とドイツの総合比較を試みることを目指している。長期比較や相互連関分析のための日独産業連関表を推計・作成した初年度に対して、平成10年度はまず、ドイツ産業連関表の新動向である物的産業連関表の検討をおこなった。物的産業連関表は、経済内部だけでなく、自然・環境とのあらゆる相互・新陳代謝関係をトン単位のフローで表したものである。すべてのフローを取り込むことで、質量保存則により投入と産出が等しくなり、物量単位であるにもかかわらず通常の産業連関分析が可能であり、また経済活動と環境との相互作用を包括的に捉えることも可能となる。日本においてもMF A(Material Flow Analysis)として注目を浴びつつあるテーマであるが、ドイツ連邦統計局の物的産業連関表は、概念だけではなく、世界でも初めて産業連関表として作成された大規模な統計である。この産業連関表の特性や利用可能性を検討するともに、ドイツの環境経済の分析を試みた。その結果、物的影響力係数では建設関連部門が高く、物的感応度係数では水道、土石・建設資材等が高いこと、生産や消費活動が、誘発構造を通していかに水などの非生産自然資産に依存しているか、等が解明された。 次に日独の二酸化炭素排出構造の相違を、産業連関分析によって検討した。日本のデータは、環境庁・国立環境研究所が公表している産業連関基本表対応のものをドイツの定義に合わせて組み替え、ドイツのデータは連邦統計局が公表している58部門のものを部門統合することにより、54部門という現在最も詳細な比較分析が可能となった。要因分解分析の手法で、日独それぞれの国における80〜90年の増減要因だけではなく、日独の格差要因を析出した。その結果、排出量格差の4割程度は、人口の規模にも影響され、家計の消費量・消費構成の相違に依存していること、等がわかった。
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