本研究期間における研究成果は、経済時系列相互間の因果性測度に関する統計的推測の理論とその計量経済的応用から構成される。定常時系列にたいする因果性測度理論はすでに本研究者が考案しているが、今回の研究では、とくにそのうちの一方向因果測度を取り上げた。そしてヨハンセン型多変量共和分モデルにたいする統計的検定法としてワルド型検定統計量および信頼域推定法を新しく考案し、さらに、このための計算プログラムを開発した。そして、日本マクロ経済の主要系列として国内総生産、コールレイト、輸出輸入、貨幣供給の過去20年のデータを取り上げ、一方向因果性の有無の検定と因果性の強度評価を行うことにより、因果性の観点から見た、近年の日本経済のマクロ構造の特徴づけを行った。これまでのグレンジャー検定が一方向因果性の有無の検定に限定されていたのにたいし、本研究で開発した推測法の特長は、一方向因果性の度合いを推定しかつ、その信頼性を測定することを可能としたことにある。具体的には、ワルド検定統計量に基づいて複数の因果測度の同時信頼域を構成することが可能となった。本研究のもう一つの成果は、第三系列が存在する場合、その一方向因果効果を除去する新しい理論とそのためのアルゴリズムを開発したことである。第三系列効果の除去にかんして、従来、グレンジャー、ゲベキー等による方法が知られているが、それぞれ短所がある。本研究による方法では、第三系列から他系列への一方向効果のみを除去することで、これらの困難を回避している点が、その特徴である。さらに、スペクトル密度行列のロザノフ分解を改良し、偏因果測度の統計的推測を実行可能とした点もアルゴリズム上の新しい貢献である。
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