研究概要 |
本研究は1970年代以降の現代日本経済の危機と再編の論理を再考する課題をテーマに、高度情報技術のインパクトをうけて、資本主義が競争的で自由な市場経済の再活性化へ歴史的な逆流現象を生じているのではないか、という私の「逆流仮説」を日本経済の動態に適用しつつ、再検討する作業をすすめた。その最終成果は、申請時の計画どおり英文の著書(The Japanese Economy Reconsidered, Macmillan and St. Marin's Press)の完成原稿としてとりまとめ、出版社に送付したところである。そこでいくつかの知見を要約しておこう。 1.日本経済は1973年を境に高度成長期から低成長へ転換し、さらに1990年代の超低成長へと2度その成長トレンドをシフトダウンした。ゼロ成長資本主義への実験が開始されるとともに、いくつかの異なる危機と回復の局面を経てそこには不安定性も増している。 2.日本企業には労働者の協力にもとづき高度情報技術が急速に普及し、その結果、労働市場にも製品市場にもフレクシブルで競争的な市場が再活性化された。そのことは、競争的市場原理の効率性を強調し福祉政策を削減する新自由主義に現実的基盤を与えている。 3.それとともに日本の産業的国際競争力の強化がくりかえし円高をもたらし、それが重要な一契機となってことに1980年代後半から日本企業の多国籍化が推進された。その延長上に1990年代には西行空洞化が日本にも現実の問題となり、失業率を高めている。 4.女性が大量に職場に動員されるにつれ、家庭生活が変容し、少子化が顕著にすすみ、21世紀にかけて日本経済の成長の限界を引き下げる重要な要因を形成している。 5.新自由主義は、日本経済の巨大バブルの膨張と崩壊を阻止しえず、財政危機の負担を労働者に転嫁しつつ、銀行救済などに公的資金を注入するような不整合をも露呈している。 こうして「逆流仮説」は日本経済にも妥当するが、そこには企業中心主義が経済民主主義と構成に反してもたらす不幸なゆがみも顕著であるといわなければならない。
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