本研究は、1990年代以降芽生えつつある東アジア経済の構造変化の内容及び方向性を、中部圏企業に対するアンケート調査(発送1200社、回収304社、回収率25.3%))を通じてその一端を把握する。今までの東アジア経済とは貿易によって結ばれた経済構造であったが、80年代後半以降、急激に進展する対外直接投資の相互浸透は、経済構造の質的変化を引き起こしている。経済関係の枠組みが貿易から直接投資へと変化すると、当然企業の動きも変化する。では、こうした構造変化に対して中部圏企業はどのように対応しているのか。周知のとおり、中部圏は日本を代表する巨大な産業集積を持つと同時に、それぞれの産業がグローバル競争に晒されているので、他の地域に比べて環境変化によるインパクトの度合いが大きい。しかし、今までの中部圏企業に対する評価は、国際化、グローバル化、ソフト化といった産業社会の構造変化には、どちらかといえば、保守的・消極的であるという否定的なものが多かった。今回のアンケート調査でも保守的な側面が見られたが、一部には従来とは違った新たな動きを読みとることができたので、以下に簡単に取り上げる。 1.中部圏企業による海外投資はまだ低いが、すでに海外拠点を持つ企業の場合は海外生産比率は飛躍的に増加。 2.中国を将来もっとも有望な市場として認識しながらも、生産拠点はまずアセアン諸国を中心に展開。 3.アジアNIES拠点の賃金上昇にも関わらず既存拠点の閉鎖を通じた拠点合理化の動きはない。 4.円高基調に合わせた海外調達の増加。 5.雇用空洞化はマスコミが騒ぐほどではないが、38%の企業がここ10年間従業員が減少したと報告。 6.今後の経営の見通しは7割以上の企業が楽観的な展望。 7.適正為替レートとして多数の企業(34.5%)が100円〜109円台と指摘。 8.大部分の企業は円高基調は日本経済の構造調整のためには不可欠であると指摘。 9.円高基調はアジア地域における新たな分業構造の誕生を刺激する触媒として認識。その他。
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