本研究では、先発企業と後発企業の間でのライセンス交渉問題において、研究開発投資がもたらす効果の検証を通じて、情報の役割、ならびに、特許制度の効果を解明することを目的としている。それとともに、交渉ゲーム理論の応用の上で必要な、理論的ツールの開発と整備をも副次的目的としている。本年度は、これまでの研究経過(その一部は、Bargaining under the Pressure of Burning Moneyというタイトルで、京都シエナシンポジウムの講究録に収められている)においては、特許による既存技術に対する保護が無期限に続く。完全情報の下での定常完全均衡と呼ばれるゲームの解を中心に、ライセンスへの誘因と、交渉を前提とする研究開発への誘因を調べてきたのに対して、不完全情報、有期限のケース、さらに、非定常完全均衡と呼ばれる解のもとでの、上述の諸性質を調べた。とくに、多数の各分野、とりわけ、産業組織論の研究者との研究情報の交換、討議を通じて、非定常完全均衡において、ライセンス交渉機会の存在が、研究開発投資への誘因を増大させるという現象が生じうるという点により重点を置くべきとの示唆を得た。これに基づいて、当初のモデルの改訂を行った結果、完全均衡によって達成できる利得配分の集合の特徴についての解明が進展した。この結果は、″On the Threat Effect of R&D″というタイトルの論文として、まとめている。 この他、不完全情報のもとでの研究では、交渉用の威嚇の不確実性がもたらす効果についての吟味を、関連文献との比較を交えて、進めている。
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