本研究では、先発企業と後発企業との間での技術供与交渉問題において、研究開発投資がもたらす効果を検証し、情報の役割、ならびに、特許制度の効果を解明することを目的としている。それともに、交渉ゲーム理論の応用において必要な、理論的ツールの開発と整備をも副次的目的としている。 交渉問題の時間的な長期性が存在し、かつ、交渉する企業が全体として、十分に複雑な戦略を含む均衡に到達しうるという前提に立つ基本モデルでのぶんせきにおいては、効率改善の可能性が示された。この結果は、繰り返しゲームの理論の結果とパラレルなものであるが、戦略的交渉ゲーム理論において、このような結果自体が生じるような設定がなかったため、知られていなかったものである。 このモデルに即しながら、最終年度には、研究開発投資水準の観察可能性という情報の問題と、特許期間の有限性が与える影響について、吟味した。いずれの問題においても、予想された影響をもたらすことが確認されるが、解のパターンが多様となり、一様な答えは必ずしも得られなかった。 研究開発投資水準が観察できない場合、交渉結果に及ぼす影響力が減少し、このため自主研究開発インセンティブが殺がれることが確認できる。しかし、状況はシグナリングゲームと共通したものとなるため、予想のパターン次第で複数の均衡が出現してしまう。 特許期間の有限性が技術供与インセンティブに与える効果は、やはり予想されるとおりにマイナスとなる。しかし、期間の長さの変化に対してこのインセンティブは必ずしも単調には変化せず、開発技術の形状によっては、期間の延長が交渉を決裂に導く可能性も認められた。 この他、理論と応用の側面では、地球温暖化問題への対処としての、先進国から途上国への温暖化ガス削減投資に関わって、複数の技術保有国と技術後進国とがそれぞれ統一歩調をとって技術移転について交渉する状況を扱うための理論的枠組みの検討を進めている。
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