平成9年度には、最近の約15年間における世界の原油・NGLの生産・貿易・消費について、統計的確認を行い、原油供給の中心は、徐々にOPEC諸国、とりわけサウディ・アラビアへ移りつつあり、1980年代後半以降の石油化学基礎製品生産能力の拡大と、主要加盟国の財政状態の改善により、OPECは市場での影響力を回復する可能性を強めている、との見通しを得た。 その後、統計数値だけではなく当該社会の特性を踏まえた上で課題に取り組む必要に迫られた。このため、平成10年度には、当初の計画にはないイスラーム経済と資本主義との比較検討を行わざるを得なくなった。 この比較検討のためにA.スミスとバーキルッ=サドルを取り上げ、本課題に関連して確認しえたのは次の点である。1.欧米型の開発政策がとられた場合、要求される対外経済政策と、イスラームの基本的価値観に基づく国内経済政策との間に相違が生じる可能性が理論的に存在する。2.中東産油国が属するイスラーム世界において意識される「市場」は、必ずしも欧米型の自由競争市場を意味しない。3.イスラーム的価値観において貧困ではないとされる生活水準の下限は、不安なく生活しうる一般的な水準であり、富者との比較において定められるものではない。以上である。 尚、研究日程の遅れが、サウディ・アラビア王国に関する資料の整理と解読作業、および、先物市場価格のデータ処理作業、において生じている。 市場におけるこれらの傾向と相違を踏まえ、資料解読とデータ処理作業を急ぎ、当初の計画に従い順次成果を発表する予定である。
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