大学機構の行動を市場経済の観点から分析する仕事は、経済学の中で未だ研究が十分に行われていない分野であることが、本研究の基本的動機であった。市場行動を踏まえた理論的、実証的分析研究により得られた主な結果は次の通りである。 (1) 大学機構行動の経済分析においても、市場競争的枠組みは基本的に有効な分析手法となりうる。とくに、大学教育サービスに対する需要・供給、教員行動、大学の複数サービス「生産」の効率的資源配分分析などにおいて有効である。 (2) しかし、大学機構の非営利性と性格の異なる資金供与者(学生、中央・地方政府、寄付者など)の大学運営に対する役割が個々に相違することが、大学の市場競争的分析枠組みに対して、特殊な性格を持ち込むことになる。ゼロ・サム資源配分下での複数目的最大化行動、学部間・学部大学院間・教育研究間等での資金相互補助Cross Subsidization)などの問題である。 (3) 大学教育需要行動については、基本的に市場経済的分析枠組み(人的資本理論など)で説明可能であるが、日本における需要増加傾向には、情報ギャップ(経済環境変化に対する需要側の認識の遅れ)が個人的・社会的資源配分ロスをもたらしている。 (4) 日本の大学機構の行動成果が不十分との一般的評価(大学審議会など)については、制度的原因による蓋然性が強い。慣行的学部自治、教員の身分保証など。 (5) 学問の自由を守りつつ大学機構の成果改善のためには、個別大学・学部の日常的機能(とくに教育、研究活動)について、相互に比較可能な基準に基づく情報開示がすべての施策に共通する基本的要素となる。
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