本研究の成果として以下の(1)〜(3)が明らかとなった。 (1) 1990年代のアメリカ経済は、所得拡大、財政赤字の解消、低失業率と低インフレ率の併存などを伴いつつ好況を持続し、今や60年代の「平時最長」に並ぶ勢いである。産業的再生は大きく進んだとみることがひとまず可能である。 (2) 90年代のアメリカの産業的再生は、長期構造論的にみると、ほぼ次のように捉えることができる。 (1) 戦後アメリカの圧倒的な産業的優位は、基幹産業の戦後企業体制ー大量生産システムと戦後労使関係を基盤とし「成熟した寡占体制」を特徴とするーを軸に、国際通貨・貿易体制、世界的軍事政治秩序を伴う、戦後「バックス・アメリカーナ」の政治経済システムによるものであった。それは長期発展の基盤の上に第二次大戦の戦時経済が直接準備した。60年末〜70年代初頭にそれが衰退したことが、80年代初めのアメリカが直面した深刻な産業的衰退の最大の原因であった。 (2) 80年代以降、「新保守主義」・「ディレギュレーション」を掲げたレーガノミックス以降の政策的枠組みのなかで、戦後システム、とりわけ戦後企業体制の転換が進行したことが、現在の産業再生の大きな要因である。それは、(i)M&Aを通じた企業再編と「本業回帰」を含む事業再構築、(ii)「リーン化」など従来型大量生産システム、サプライヤー・システムの革新、(iii)戦後「伝統型」労使関係の再編とノンユニオン型労務管理の拡大、(iv)経営組織の革新、などを主な柱とするものである。情報通信技術革新の効果も大きく注目される(CALSやサプライチェーンネットワーク、ナレッジマネジメントなど)。 (3) 現在の好況は「株価連動景気」の性格を強めている。また、大幅な貿易収支・経常収支赤字の拡大や所得格差の拡大などの問題を依然伴っている。アメリカの国民経済的な産業再生の問題は、個別企業の好事例のみにとらわれず、企業・産業の好パフォーマンスと景気循環的要因を分離して検討するなど、長期的視点からさらに解明される必要がある。なお、本研究の一部として、戦後「バックス・アメリカーナ」システムの形成に関して、『第二次大戦期アメリカ戦時経済の研究』(御茶の水書房)を単著として刊行した。
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