本年度については、イランの経済政策の現状把握のために、Iran Dailyを検索し、経済問題に絞って、現在のイランが政策上かかえる問題点を抽出し、整理した。そこから明らかになったのは、石油産業への依存から脱却するための産業育成が、石油価格の下落ではかどっていないことである。税収不足に陥った政府は、他の部門からの徴税に躍起となっているが脆弱な徴税システムのもとでは、さしたる成果は望めないのが現状である。 ただし、このような徴税システムの欠如は、近代化の失敗というよりも、重厚長大ではないが、国家の統制を受けない民間の産業活力を維持する結果ともなっている。これは、昨年度から今年度前半にかけて研究したイランの伝統部門の社会的・経済的役割とも深く関連している。したがって今年度は、歴史的背景もふまえながら、イランの税制システムの変遷に関する研究に着手した。これは土地所有形態とも密接に関わる重要な問題であり、イスラーム法に照らした所有と課税の歴史的実状、ワクフの位置づけなどが検討され、次年度へとつなげられた。 またエジプトに関して、そこに根強く残る伝統社会の相互補完的な経済・社会関係について考察を行なった。次年度以降の比較研究に備えて、伝統部門において、イスラーム指導者、イスラーム社会のネットワーク、地域社会、家族などが果たす役割と機能を明確にすることに努め、国家の経済政策との関連性について検討をすすめた。
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